自動車事故と企業責任
人身事故の被害者に対する運転者(従業員)自身の責任はというと、自賠法に基づく運行供用者としての企業や会社の責任とともに、運転者にも当然責任がかかってきます。その場合の責任は、自賠法によらず民法(709条)による不法行為責任で、両者は被害者に対して連体して責任をとることになります。
民法第709条【不法行為による損害賠償】 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。 |
複数の加害者に故意や過失のあったときには、「共同不法行為」(民法719条)といってその全員が責任を負うものとしています。
過失相殺にしろ共同不法行為にしろ、被害者保護の考え方があらゆる場合に生きていて、運行供用者の責任が強く問われているのが現状です。
責任がゼロになるのとはちがいますが、事故の際、被害者に過失があったときは、その責任の一部を負担してもらうという「過失相殺」(民法722条2項)という規定があります。
民法第722条2項【損害賠償の方法及び過失相殺】 被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。 |
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ときに、運行供用者としての地位にあっても、起こした事故についての責任を免れる一応の例外はあります(自賠法3条のただし書)。要件は3つになります。
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運行供用者及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと・・・これは、関係法令をすべて守らなければならないことはもとより、ふつう社会的に求められる注意義務をも含みます。例えば、運転手の運転そのものについての注意義務、運転手に対する健康管理、自動車の管理等をさします。
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被害者か、第三者に故意とか過失があったこと。
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自動車に構造上の欠陥や機能上の障害がなかったこと・・・たとえば、ブレーキ等にまったく欠陥がなかったことを証明することです。
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以上3つの要件すべてを加害者側で証明できないと、運行供用者責にを免れることはできません。これらを加害者側で立証することは、実際上非常に難しいことはいうまでもありません。
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個々の自動車について運行供用者責任があるかどうかを問う際、その理由づけとして「運行支配」とか「運行利益」の有無が検討されることになります。
その場合、
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運行供用者とみられる者と自己運転者とのあいだに雇用関係等密接な関係があるかどうか
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日常の自動車の管理・運転状況等を客観的にみて、事故運転者の運転が運行供用者とみられる者のためになされるかどうか
といったことが具体的に検討されます。
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しかし、こうした加害者側の内部事情は被害者サイドからはなかなかうかがい知ることができず、その事実を主張したり立証することが難しいため、場合によっては被害者救済の趣旨にそぐわないこともあります。
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この欠陥を補うため、判例ではいろいろな解釈や訴訟上のテクニックを用い被害者救済に努めているようです。ひとつの考え方として、被害者(原告)が「加害者(被告)は、加害自動車の所有者であるから、自己のために運行の用に供する者だ」と一方的に主張、例えばその自動車の所有権を立証さえすれば、原告側としては被告が運行供用者であるという要件を主張・立証したものとするものがあります。
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被告側がこれを免れるには、その加害自動車の運行に当たって「自分は運行供用者という地位にはありえなかった」とする事実をもってこれに抗弁できなければなりません。内容的には「運行利益」にくらべ「運行支配」のウエイトが高く、ほとんど「運行支配」だけが問題になるといっていいでしょう。結論的には、被害者側は訴訟がやりやすくなる一方、加害者側にとっては運行供用者としての責任追及がますますきびしくなったといえます。
運送会社とか父親が責任を負わなければならないとしているのも、要するに運行供用者のほうが一般的に資力があるからという被害者保護の考えと、また、運行供用者は運行によって利益を得ているのだから、そのために他人に損害を与えたときは当然賠償すべきである(報償責任)とする考えがあるからです。
「他人」とは、判例【東京地裁・昭和34.12.18判決】等によって、運行供用者と運転手以外の者で自動車に搭乗中の人や車外の人をさすとしていますが、妻子さえも自賠法上の他人に当たるとされるようになりました【最高裁・昭和47.5.30判決】。自動車事故は夫婦・親子も他人にしてしまうわけです。
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運行とは「人または物を運送するとしないとにかかわらず、自動車を当該装置の用い方に従い用いることをいう」(自賠法2条2)とされています。
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例えばバスの車掌さんがドアをしめたとき乗客がドアに手をはさまれてケガをしたときも「運行」ですし、また運転手が自動車から降りるためにドアをあけたとたんバイクがドアに突き当たりバイクに乗っていた人がケガをした場合も「運行」とされます。
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運行供用者とは現実に必ずしも自動車を運転する人と一致しません。たとえば運送会社を例にとると、その会社のトラックを運転する従業員の運転手は運行供用者ではありません。運転手は会社に雇われ直接的には会社のために働いているのであって、自動車の運行についての支配権も、運行によって上がる利益も直接自分のものにならないからです。そこでこの場合、運行供用者に当たる者は運送会社ということになります。また、父親の所有者を息子が運転した場合、父親が運行供用者となることもあります。しかし、個人が自分のマイカーを自分で運転する場合は、通常、個人本人が運転手であり運行供用者でもあることはいうまでもありません。
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自賠法では、このような運行供用者がその運行によって他人を死傷させる自己を起こしたとき、被害者に対して損害賠償の責任を負うことを定めています。
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自賠法を“企業と自動車”という点から考えると、「運行供用者責任」という規定が大きな意味をもっています。
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「運行供用者」とは、「自己のために自動車を運行の用に供する者」(自賠法第3条)と定義されていますが、内容として2つの考え方が含まれています。それは「自己のために」ということにかかわるもので、
(1)自動車の運行についての支配権(運行支配)をもっていて、
(2)それによって得る利益(運行利益)が自己に帰属する
ということになっています。